最近、住宅ローンの相談を受けることが多い。当社のお客様は、首都圏とりわけ東京23区に在住している方が多いため、億を超える物件を検討している人が多い。個人的には家に1億かけるくらいなら、旅とゴルフと居酒屋でお金を使いたいと考えているが、いろいろな価値観があるのだろう。いずれにしても東京で快適な暮らしを送るには、それなりの金額を覚悟しなければならないのだろう。
一部の富裕層の方は別として、一般のビジネスパーソンが住宅ローンを借りる際にどのようなことに気をつけるべきなのか?身の丈以上に借金をして、家計を圧迫しないためにも、まずは適切な借入金額を検討しなければならない。
家に対する妄想が膨らみ、ついつい身の丈以上の物件を購入して返済に苦しんでいる人に多くお会いしてきた。どう見ても身の丈以上の物件を買って、流動性が枯渇している。いい家に住んでも生活が厳しければ意味がない。住宅ローンの支払いで家計が圧迫されて、資産形成ができないという典型的なパターンである。
このパターンの人の特徴であるが、賃貸で毎月大家にお金を払っていることがもったいなくて、思い切って家を買ったという人が実に多い。住宅ローンは35年で賃貸の時よりも毎月のローンの支払い額は高くなっている。賃貸の時代にもさほど預金が出来ていなかったので、賃料より高くなった住宅ローンの支払いでお金が貯まらない。アドバイスに一番困るパターンで当社のお客さまにはなりようがない。
もう一つよくあるパターンであるが、これはまじめな人が陥りがちである。賃貸の時にしっかりと預金をして住宅購入に向けて頭金をしっかりと貯めてきたのだが、いざ購入するときに、とにかく借金が嫌いなため頭金を突っ込みすぎるパターン。コツコツと貯めた3500万円の預金のうち3000万円を頭金として支払い、手元のお金が500万円しか無くなってしまった。気持ちは分からないでもないが、このパターンの人も資産形成は難しいといえる。
結論であるが、低金利下の今は、銀行に3000万円借りて、頭金で支払った3000万円をしっかりと運用したほうが良いだろう。
3000万円を金利1%で借りると金利負担は年間30万円である。借入残高の減少とともに金利負担は、年々減っていく。一方で3000万円を年率5%で運用すれば、年間150万円の収益が期待できる。収益は複利で年々増えていく。この取引によって金融収益は、概算で150万-30万円=120万円である。
もちろん確実に毎年5%を獲得することは不可能であるが、長期投資で年率5%の収益を獲得することは、さほど難しくないのである。3000万円の頭金を支払ってしまうと、収益機会(チャンス)を失ってしまう。期待収益は、銀行に支払う金利、-30万円で確定してしまうのだ。
全体的にマンションも戸建ても10年、20年前からかなり価格が上昇したが、一方で住宅ローン金利が低下していることはプラス要因である。
現状、ゼロ金利の日本においては、変動金利で借りれば0.5%という信じられない水準の商品もあるようだ。固定金利でも1%程度の商品もあり、お金を借りる人にとっては追い風であることは確かである。
これまでも当社のお客様に対しては頭金を突っ込みすぎないことを推奨してきた。
7年前に5000万円の頭金を支払おうとしたご夫婦を説得して頭金を1000万円にしてもらい、4000万円を当社で運用していただいた。その4000万円は現在、約6800万円に増えている。ちなみに4000万円借りて、7年間で銀行に支払った金利は、220万円程度である。資産運用で2500万円以上稼いだということである。もし運用していなかったら、得られなかった収益である。
低金利で身の丈に合った金額を借りて、手元に持っている資金はしっかりと運用して増やしていく。将来、仮に金利が上昇して住宅ローン金利が上昇したら、増えている金融資産を取り崩して返済に充てることも可能である。当然であるが、負債=悪というわけではなく、いい負債(資金調達)と悪い負債があるのだ。
企業経営においても家計においても資産と負債のバランスをしっかりと管理することが大切である。金利が高い時代の常識とゼロ金利時代の常識は異なるため、頭金をたくさん払ったほうが良いという親たちのアドバイスも役に立たない。銀行や不動産屋の言いなりになるのではなく、銀行に支払う金利と資産運用から得られる収益のバランスをしっかりと考えて、住宅ローンを検討するべきである。