私が松山英樹のファンになったのは、約10年前のことである。彼の出身が愛媛の松山であること、そして彼の発するオーラから世界に通用するゴルファーである予感がしたためである。
以来、松山のラウンドは殆どテレビ観戦してきたし、LIVEで見れないときはビデオ録画して一打一打チェックしていた。2011年、東日本大震災の1か月後にマスターズにアマチュアとして出場し、ローアマを獲得。そして2年後の2013年プロに転向後、1年目で賞金王となり、2014年には主戦場をゴルフの本場、米PGAにうつし、メモリアル・トーナメントでケビン・ナとのプレイオフを制し、PGA初優勝!
その後の快進撃は、まさにジャパニーズドリームでPGAで日本人最多の5勝を挙げ、一時的に世界ランキングは2位まで上昇し、世界一が目前に見えていた。しかしながら、日本人初のメジャー制覇を目前に全米プロで天敵ジャスティン・トーマスに敗れてから、松山は優勝から遠ざかっていくことになる。
私自身、松山英樹が日本に帰国した際には、できる限り応援にかけつけ、日本オープンやダンロップフェニックスオープン、太平洋VISAマスターズ、ZOZOチャンピオンシップなどをプロギャラリーとして転戦した。
彼が一番調子の良かった2016年、フェニックスオープンでリッキー・ファウラーとのプレーオフによる激闘を制しPGA2勝目を挙げた翌週、狭山ゴルフ・クラブにて開催された日本オープンを観戦した。予選ラウンドで松山は、アダムスコットと石川遼とのペアリングであったが、その鍛えられた肉体は、マスターズチャンピオンのアダムスコットをもしのぐ迫力であった。石川遼に関しては、世界レベルの二人に挟まれ、明らかに線が細く見えた。日本のスターは、世界では全く通用しないのが現状かもしれない。
松山英樹やPGAのトップ選手のスイング、そしてそのインパクトの打球音に実際に触れると残念ながら日本のプロ選手のスイングを見ても驚きはないし、物足りなく感じてしまう。
野球でいえばメジャーリーガーと高校球児くらいの違いがあるように思うのだ。それくらいに世界トップランカーらのゴルフは、凄いし、実際に見ると、その違いは圧倒的に大きいのだ。
その世界レベルの実力にまでのし上がった松山でさえも、幾度もメジャーの壁に阻まれていた。メジャーを制するには、実力だけではどうしようもない運のようなものも必要なのだろう。2021年も松山の調子はあがらず、世界ランキングは25位前後で推移していた。昨年末から、目澤コーチと契約し、スイングやパッティングの修正をしながら試合をこなしていたが、今年はトップ10に一度も入ることなく結果が出ないままマスターズを迎えた。いつもであればマスターズ前週は調整に充てる松山が、今回は前週もプレイしてオーガスタに乗り込んだ。
初日、2日目を終えて、好位置で決勝ラウンドを迎えた。本人の言う通り、波風を立てずにいい位置についた。この時点で私はもしかして優勝するかもしれないと感じていた。なぜならば明らかに彼の表情、課題のパッティング、ショットの調子が良かったからだ。世界一位のダスティン・ジョンソンが予選落ちし、デシャンボーも予選は通過したものの、難コースに苦戦していた。前週、久しぶりに優勝したジョーダン・スピースと天敵ジャスティン・トーマスが怖いと思っていたが、松山優勝の雰囲気が感じられた。
松山英樹の3日目は圧巻であった。マスターズ自己最高の65のラウンド。この日、ボギーフリーは、フィールドで松山一人であった。15番のセカンドと18番のアプローチは、まさに神であった。この日のラウンドは、10年間にわたって私が見てきた松山のラウンドで、おそらく(内容的に)最高のラウンドであった。まさにゾーンに入った完璧なゴルフであった。
最終日は、非常に苦しいラウンドであった。その緊張の中でよく耐えたものである。3日目の貯金で4打差があったこと、リズムが良いショットメーカーのザンダー・シャフレとペアリングが同じであったこと、天敵ジャスティン・トーマスが前日に大崩れしたことなど、松山には好条件がそろっていた。3日目の65のラウンドが日本人初のマスターズ優勝に大きく貢献したことは間違いない。バックナインの圧巻のゴルフは一生忘れないだろう。
さすがに優勝シーンは、涙なしで観ることは難しかった。解説の中島や宮里の気持ちもよく分かる。彼の世界一の練習量、これまで数々の苦難を乗り越えてきた努力をゴルフを愛する人たちは、知っているのだ。
正直、いつかメジャーに勝つ日が来るとは思っていたが、このタイミングで来るとは想像していなかった。夢のように思っていたことが、現実になった。愛媛県松山市出身の29歳の若者が、日本人、いやアジア人の誰一人として成し遂げたことがないマスターズ優勝という偉業を成し遂げたのだ。ちなみに我が家には二人のマスターズチャンピオン、アダムスコットと松山英樹の直筆のサイン入キャップがあるが、これは家宝としよう。
さて松山英樹は帰国し、インタビューで『初めて、クラブを持ちたくないと感じている。』と打ち明けている。想像を絶する死闘を制したことで、精魂尽き果てているのだろう。アダム・スコットやガルシアなど歴代マスターズチャンピオンもマスターズ制覇のあと、やや燃え尽きている感じはあり、松山も多少そういう面はあるだろう。しかし、松山英樹はまだ若い。これから10年間が全盛期となると信じているし、マスターズ制覇という高いハードルを乗り越えた今、グランドスラム、世界ランキング1位ももはや夢ではなく現実的になってきた。
コロナでなんとなく暗い世の中であるが、一人の若きゴルファーの偉業がここまで世の中を明るくするとは驚きであると同時に人間の力は、すごいと改めて感じた。
松山英樹のようにはいかないが、私もファイナンシャルアドバイザーとしてお客様に貢献し、少しでも世の中を明るくしたいものである。
あらためて松山英樹選手、おめでとう!そして感動をありがとう!